貞洞劇場は、国立中央劇場の分館で、ソウル市庁舎前の徳壽宮の西裏にある韓国の伝統芸能を紹介するために設けられたものだそうだ。ワンステージの公演時間は90分。入場料は、A席2万ウォン(約2千円)、S席3万ウォン。私はかぶりつきのA席で見た。
2日目夕方「行きませんか?」と父に勧めたが「俺はいいワ。いかん。」とすげなく断られて、初めての単独行動となった。午後4時の開演に合わせて、余裕を持ってホテルを出発し、歩いて10分足らずで着いた。
実は、私が住んでいる延岡市から、車で約1時間半ほど南西の山間部に入った南郷村には、戦禍を逃れた百済王族が我が国へ渡り、南郷村に住み着いたと言う伝説があり、それを証明する銅鏡類が大切に保存されている。
その言い伝えから、同村は百済王朝のあった韓国忠清南道扶余(プヨ)市と姉妹都市盟約を結び、韓国から(若くて聡明な女性)交流員を招いて韓国語講座の開講などの文化交流を進める一方、韓国の伝統建築様式を厳格に再現した遺物記念館や、同じく村に伝わる銅鏡類の中に、奈良の正倉院宝物と同一のものがあることから、正倉院と寸分違わぬ「西の正倉院」を建設したりして、ユニークな、いわゆる「村興し」を進めている。
また、村役場や農協の職員、農業青年などで構成された「サムルノリ(韓国農楽)・グループ」も結成され、本場へ勉強に行くなどして、イベントの折々にその練習の成果が観光客や村の人に披露されていて、私も好感を持って鑑賞したことがある。
今回は、貞洞劇場でその本場のサムルノリを見たいと思い訪れたのだ。だが、南郷村で一般にサムルノリと言われているものと、本場のサムルノリは少し違っているようだった。
あちらの「サムルノリ」は、楽器の構成は南郷と同じで、ジャンジャンとリズムを刻む小さいドラ、ボーン・ボーンと低音部を支える大きいドラ、独特のバチの握りで両面を交互に巧みに叩き分ける太鼓、そして昔の豆腐やさんのふれラッパの形をして音は1オクターブほど高い音を出す管楽器の四つで構成されているが、床(地面)に座り演奏を聴かせるもののようであった。
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南郷で演じられているものは、広場を所狭しと走り踊りまわりながら先の楽器を演奏するもので、同じ構成の楽器を演奏しながら、頭上に細長い紙辺を付け、それをクルクル振り回しながら踊る「パング」と呼ばれるものに似ているように思えたが、いずれも微妙に異なり、同じ沖縄のハイサーでも、その島々で少しずつ形態が異なるようなものであろうと理解した。
他に、有名な原色の大きな扇を使った女性達の踊り、胡弓、太鼓、さっきの豆腐屋さんのふれラッパと一緒に3竿の大きさの異なる琴をそれぞれ爪、弓、スティックで弾く器楽合奏、琴を弾きながら女性が歌う弾き語りなどが紹介された。
しかし、なにより、ここの出し物の圧巻は、フィナーレであろう。
カーテンコールにすべての出演者が出てきて、彼らは、そのままステージから客席に降りて来て、「さあー、行きましょう、行きましょう!」と観客を劇場の外へ誘うのである。連れられて出た劇場外の広場で、彼らは客を間に挟んで「一緒にどうぞ!」とばかり踊りだし、客もつられて踊りだしてしまい、この写真のように、黒、黄色、白、褐色、色々な肌の色や、彼らが育まれた音楽やダンスなどの文化の違いを乗り越えて、韓国民族音楽の調べにのせて、手に手を取って広場を踊り狂うのである。
ひとしきり踊りつかれると、今度は肩を組んで記念撮影タイム。JTBのバッジをつけたおっさんが、チマチョゴリの若い出演者の横に立って、喜色満面でカメラにポーズを作り、歌舞伎見物よろしいご婦人方が、ジャンジャンのお兄ちゃんを取り囲んで写真に収まる。
「見る観光からする観光」と少し前には我が国の観光所管官庁であった「運輸省」が提唱いてたテーマを見事にこの劇場はやってのけていた。脱帽である。
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今回の韓国旅行の、個人的なメインイベント、当地の野鳥図鑑購入の時が来た。昨年のボストンのように、事前に書店の所在は調べておいた。ホテルロッテの前の地下道を先ほどの貞洞劇場とは逆方向へ行けば乙支(ウルチ)書籍という書店が地下1階にあることは知っていた。
問題は、どうやって欲しい書籍(私の場合は「野鳥図鑑」)を店員さんに伝えるかである。昨年英語で「野鳥図鑑」をなんと言うか知らずに書店へ行ってひどい目に会っていたので、今回は用意周到No.125に書いたように、ホテルの李さんにカードにこちらの目的をハングルで書いてもらい、この日の夜その書店に飛び込んで、いきなり店のお姉ちゃんに見せたら「???」げな。うそ・・・、とドギマギしていたら、彼女は「店長(勿論韓国語で)!」とか言って中年の男性に助けを求め、その彼が間髪を入れずある書棚に私を案内し、一瞬棚を眺めてパッと添付写真下段の本を取り出して手渡してくれた。
せっかく勧めてくれたのに失礼とは思いながらも、図鑑本体をブック・ケースから取り出して中身を確認し、素敵な訂そう、抜群の生態写真、本の構成に満足して、「コマスミダ。」と礼を言ったら、彼は「あー、忙しいのに。」と言った風にレジの方へ去っていった。
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やおら、裏表紙を開いて価格を確認したら3万5千ウォン(約3500円)と表示があり、そのまま持ってレジへ行ったら、さっきの彼だった。
昨年、ボストンの本屋で5メートルくらいの幅のひと棚全部が様々な野鳥図鑑で埋め尽くされていたのに比べて、ここでは幅が1メートルほど、しかも翌日再度訪れて、周囲の書棚まで、何回もぐるぐる回って探したが、野鳥図鑑は購入したものを含めても僅かに3種類しかなかった。
ちなみに、ソウルは大都会の割には古い宮殿など緑の多い場所が市街地に点在しているが、野鳥は、かの有名なガササギ、カラス、スズメくらいしか観察されなかった。
ただ一度、翌日午前に訪れたソウル大学医学部付属病院の旧本館脇の木立でまったく聞き覚えの無い鳥の鳴き声を聴いたのだが、木立の中を右へ左へ、うろうろして姿を探したけれども、とうとう見ることができなかった。ヒタキの類であるように思えた。
ところで、左の表紙カバーをよく見ていただきたい。右上端の写真はまぎれもなく「ヤイロチョウ」である。緯度が新潟、秋田と同等のソウルにいるはずはないので、もっとも南の済州島(チェジュド)辺りで観察さてるのだろうか。残念ながら、生態関連地図の記載はなく、生態説明記述はすべてハングルのためチンプンカンプンであります。まあ、手がかりは鳥種が同一かどうかを確認できるラテン語の学名と英語の種名くらいでしょうか。(つづく)
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